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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)10754号 判決 1987年12月22日

原告 栃木敬二

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 鈴木博

被告 渡辺パイプ株式会社

右代表者代表取締役 渡辺次祐

右訴訟代理人弁護士 中野公夫

同 藤本健子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告栃木敬二に対し、金六〇〇万円、原告株式会社栃木材木店に対し、金員四〇〇万円及びこれらに対するいずれも昭和六一年八月三〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告株式会社栃木材木店(以下「原告会社」という。)は、材木の輸入販売等を目的とする会社であり、原告栃木敬二(以下「原告栃木」という。)は原告会社の代表取締役である。

2  被告は、次のとおり主張し、昭和五九年七月一七日、宇都宮地方裁判所栃木支部に対し、原告栃木を債務者として、不動産の仮差押(同裁判所同年(ヨ)第六〇号)を申請し、同日、同裁判所から原告栃木所有の別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を仮に差し押さえる旨の決定を得、そのころ右仮差押の執行をした(以下「本件仮差押」という。)。

訴外株式会社小林管工(以下「小林管工」という。)は被告に対し、管工機材の購入代金の支払のための左記二通の約束手形金債務(合計金五一〇五万三八六九円)を負担しているところ、原告栃木は被告に対し、昭和五七年九月九日、小林管工が被告に対して管工機材の継続的取引により負担する一切の債務について、連帯保証する旨約した。

(一) 金額 金一五八七万九五二六円

満期 昭和五九年八月一〇日

支払地 栃木県栃木市

支払場所 栃木信用金庫本店

振出地 栃木県宇都宮市

振出日 同年四月一〇日

振出人 小林管工

受取人 被告

(二) 金額 金三五一七万四三四三円

満期 同年九月一〇日

振出日 同年二月一三日

支払地、支払場所、振出地、振出人、受取人は(一)と同じ。

3  然るに、本件仮差押の本案訴訟である同裁判所昭和五九年(ワ)第八六号約束手形金等請求事件(原告―本件被告、被告―本件原告栃木)につき、同裁判所は、昭和六一年二月五日、請求を棄却する旨の判決を言渡し、控訴期間の経過により右判決は確定した。

4  被告の責任

被告は、十分な事前調査(原告栃木に対する保証意思確認等)を行えば容易に被保全権利(原告栃木、被告間の保証契約)及び保全の必要性が存しないことが判明したにも拘わらず、これを怠り、本件仮差押申請に及んだものであるから、被告は原告らが被った後記損害を賠償すべき義務がある。

5  原告らの損害

本件各不動産は原告会社の取引銀行に対する債務の担保に提供されていたところ、本件仮差押により、原告らの信用が失墜し、信用状の開設を拒絶され、かつ。担保権の実行をされたため、原告栃木は、本件各不動産の所有権を喪失する運命になり、本件各不動産のうち別紙物件目録三、四記載の各不動産の売買契約(買主―訴外ヤオハン商事株式会社)が履行不能となり、原告会社は、経営が逼迫し、昭和六〇年三月一日、二回目の不渡手形を出して事実上倒産した。

(一) 原告栃木の損害

(1) 本件各不動産の所有権喪失による損害金一〇〇〇万円以上

(2) 右売買契約の履行不能による損害売買代金と競落代金の差額 金五一〇万円手付金に対する利息 金八〇万〇八二七円

(3) P・T・サンバー有限会社(インドネシア)に対する出資が無価値になった損害 金二三五〇万円

右逸失利益(二年間分) 金一〇〇〇万円

(4) 慰藉料 金六〇〇万円

(5) 弁護士費用

本件仮差押異議事件 金六〇万円

本訴訟 金三〇〇万円

(二) 原告会社の損害

逸失利益(二年間分) 金一八〇〇万円

6  よって、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告栃木は右損害の一部金六〇〇万円、原告会社は右損害の一部金四〇〇万円及びこれらに対する不法行為日以後である昭和六一年八月三〇日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4は争う。

被告が本件仮差押をした根拠は、次のとおりであるから、被告の本件仮差押に何らの過失も存しないことは明らかであり、不法行為をもって問責されるべき筋合いはない。

(一) 小林管工、被告間の取引約定書の連帯保証人欄には原告栃木の氏名が記載され、かつ、同原告の実印が押捺されており、右取引約定書には同原告の印鑑登録証明書が添付されている。

(二) 小林管工の代表取締役の妻と原告栃木の妻は姉妹である。

(三) 原告栃木は原告会社の代表取締役であり、いわゆる勤め人ではない。

(四) 原告の妻は、昭和五九年六月二九日、被告の宇都宮営業所において右取引約定書の写の交付を受けている。

(五) 被告の宇都宮営業所長が、昭和五九年七月五、六日ころ、原告栃木に対し、保証の件について架電したところ、同原告は、保証責任について否定することなく、「これから出張するんで四、五日帰って来ないから、帰って来た段階で電話します。」と答えたが、その後、同原告は被告に対して何の連絡もしなかった。

3  同5は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  被告の責任について

前記争いのない事実のとおり、本案訴訟が被告の敗訴により確定したことにより、被告は、被保全権利が当初から存在しないにも拘わらず、本件仮差押申請をなして、同決定を取得したことになる。

このように本案訴訟において仮差押申請人敗訴の判決が確定したときは、他に特段の事情がないかぎり、仮差押申請人に過失があるものと推認するのが相当である。

そこで、被告において被保全権利(原告栃木、被告間の保証契約)及び保全の必要性があると信ずるに足りる相当な理由があったか否かを検討する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

1  小林管工、被告間の取引約定書の連帯保証人欄には原告栃木の氏名が記載され、かつ、同原告の実印が押捺されており、右取引約定書には同原告の印鑑登録証明書が添付されており、小林管工の代表取締役である訴外小林茂は被告に対し、右同原告の氏名の記載は同原告の自筆によるものである旨明言したが、被告は原告栃木に対し、右取引約定書受領の際、保証意思の確認をしていないこと。

2  小林管工の代表取締役の妻である訴外小林トシ子と原告栃木の妻である訴外栃木幸子は姉妹であること。

3  原告栃木は原告会社の代表取締役であり、いわゆる勤め人ではないこと(当事者間に争いがない。)。

4  原告栃木の妻である訴外栃木幸子は、昭和五九年六月二九日、同原告の指示で、被告の宇都宮営業所において右取引約定書の写の交付を受けたが、その際、原告栃木の保証について、何ら異議を唱えていないこと。

5  被告宇都宮営業所長である訴外大須賀信彦が、昭和五九年七月五、六日ころ、原告栃木に対し、保証の件について架電したところ、同原告は、保証責任について否定することなく、「これから出張するんで、四、五日帰って来ないから、帰って来た段階で電話します。」と答えたが、その後、同原告は被告に対し、何らの連絡もしなかったこと。

6  本件各不動産には、原告会社の債務を担保するため多額の極度額の根抵当権が設定されており、また、昭和五九年ころ、木材業界は、需要の低迷で、売上高が落ち込んでおり、原告会社も例外ではなかったこと。

右認定事実によれば、被告は原告栃木に対し、明確な保証意思の確認をしていないものの、保証意思に疑念を生じさせる事情は窺われず、一方、同原告は、右取引約定書の存在を知りながら、被告に対する連絡を放置していたものであるから、被告が被保全権利(原告栃木、被告間の保証契約)及び保全の必要性があると信ずるに足りる相当の理由があるものと認められ、被告の本件仮差押申請行為に過失があるものということはできない。

三  以上によれば、原告らの本訴請求は、その余を判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉了造)

<以下省略>

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